2020年度

＜概要/Course Content Summary＞

■授業形態：zoomを用いての遠隔授業となります。　
　
AI（人工知能）は人知を超えた事実を発見し，人間にはできなかったことを可能にしてくれる――1960年代の未来予想図が描いていた気分が世界を覆い始めている。AIによる評価や判断は「人間によるバイアス」を抑止し，より客観的で公正であるといった声もますます大きくなっていく。AIによる評価や判断は「神の託宣」に祭り上げられ，その形成過程は企業秘密としてブラックボックス化されるとともに，高額の料金が請求される原因ともなっている。だが，その判断や評価のシステムが正しい評価や判断を行ったのかの評価は必ずしも行われているわけではない。評価や判断のシステムはフィードバックによって精度をあげていくもの，数千から数百万回の試験を実施して，外れ値を除外するよう変数の操作が本来は必要である。不十分な精度の評価や判断のシステムに基づいて行動を起こすことは，そのシステムが有効であると実証されたかのような見せかけを作り出すことに他ならない。キャシー・オニール『あなたを支配し，社会を破壊する，AI・ビッグデータの罠』（Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy, 2016.）の読解を通じて，科学，価値，分析のそれぞれと当事者としての人間との関係をあらためて確認したい。　

＜到達目標/Goals,Aims＞

キャシー・オニール『あなたを支配し，社会を破壊する，AI・ビッグデータの罠』の読解を通じて，「科学的とはどういうことか」「分析するとはどういうことか」「中立・公正のように見えるアルゴリズムにも作り手の価値観のみならず差別や偏見までもが埋め込まれているということ」を学生が理解できるようになることが到達目標である。

＜授業計画/Schedule＞

受講者と相談の結果，授業計画を変更する可能性がある。

＜成績評価基準/Evaluation Criteria＞

＜テキスト/Textbook＞

著者の経歴はテキストの叙述への信頼を高めてくれる。著者はハーバード大学で数学の博士の学位を取得し，コロンビア大学バーナードカレッジの終身在職権付き教授職にあったが，辞して米国大手ヘッジファンドのＤ・Ｅ・ショーで高度な数学的手法による分析・予測を行う金融工学の専門家「クオンツ」として働くも，転職１年後の2008年にリーマンショックに遭遇し，金融工学とデータ・サイエンスのあり方への疑問からその見直しを開始した。本書の語り口は平易であって，原理的な問題の所在についての理解を得るのに大いに資するものである。