シラバス
※学期中に内容が変更になることがあります。

2020年度


30806702 

△文化情報学特殊講義2
Special Lectures in Culture and Information Science 2
2単位/Unit  秋学期/Fall  京田辺/Kyotanabe  講義/Lecture

  吉野 諒三

<概要/Course Content Summary>

<テーマ> 人文社会科学の理念と実践 
 
 数理心理学,計量心理学及び数理社会学を中心として,人文社会科学一般につながる科学的方法論の理念と歴史的背景,実践的展開について講義する。方法論の基礎としては,林知己夫らの「数量化理論」から「データの科学」までを含む,先駆者たちの科学哲学とそれが生まれてきた背景を俯瞰しながら,机上の空論に終わらぬよう,実践の現場での意義を考察する。特に測定論の基礎として,心と物の対応関係を明らかにすることを目指した精神物理学の中で発展してきた計量心理学的測定論,行動学研究における数理心理学の発展の中で生まれた「公理的測定論」を概説する。また,理論と歴史と実践が密接な関係を持って発展してきた例として,統計的無作為標本抽出法にもとづく世論調査・社会調査の方法について詳説する。この中で,戦後60数年以上にわたる「日本人の国民性調査」や「意識の国際比較調査」のデータ解析例が提示される。 
 講義を進める中で,近年の実証的データに基づく学術研究や政策立案の問題点について,受講生とともに議論し,理解を深めよう。 

<到達目標/Goals,Aims>

学生は科学的測定理論の基礎的知識を身につけ,まず,学術論文や公共機関やマスメディアに表れる統計データについて自信を持ってその信頼性の是非が判定できるようになることを目指す。さらに,目的に適合した実験・調査計画にそってデータを収集し,統計的に適正な解析を施し,その結果を一般の人々にも簡明に理解してもらえる表現ができるようになることを目指す。 

<授業計画/Schedule>

(実施回/
Week)
(内容/
Contents)
(授業時間外の学習/
Assignments)
(実施回/ Week) 1オリエンテーション  (内容/ Contents) 講義全体の概要解説  (授業時間外の学習/ Assignments) 特になし 
(実施回/ Week) 2科学的方法論の基礎---「測定」とは?  (内容/ Contents) 科学的測定とは何かの視点を位置づける。  (授業時間外の学習/ Assignments) 提示された論文等を通読することが望まれる。 
(実施回/ Week) 3「統計数理」「数量化」「データの科学」  (内容/ Contents) 戦後日本で発展してきた実践的統計哲学について触れる。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 林知己夫著「データの科学」 
(実施回/ Week) 4「行動科学の方法」  (内容/ Contents) 心理実験や教育調査などの心理学研究をの方法論の枠組みについて解説する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 池田央「行動科学の方法」 
(実施回/ Week) 5科学的測定の基礎---「公理的測定論」  (内容/ Contents) 数理心理学の「公理的測定論(抽象的測定論)」の基礎について解説する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 David Krantz他[Foundation of Measurement]I,II,III 吉野他「数理心理学」 
(実施回/ Week) 6実験心理学的測定と数理モデル  (内容/ Contents) 実験心理学の多様な数理モデルの幾つかを具体的に解説する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 印東太郎「心理学II」 
(実施回/ Week) 7「選択」の数理心理学---主観的効用と確率  (内容/ Contents) 数理心理学から生まれ今日の行動経済学につながる「主観的効用価値」の理論について解説する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 R.D.ルース他「数理心理学入門」 
(実施回/ Week) 8「思考」の数理心理学---行動経済学」   (内容/ Contents) カーネマンのノーベル経済学賞などで,近年,有名になってきた行動経済学の考え方について言及する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 カーネマン「ファースト・アンド・スロー」 
(実施回/ Week) 9社会調査の基礎---歴史と理論と実践の三位一体  (内容/ Contents) 戦後日本の民主化と経済的復興と密接に発展してきた社会調査・世論調査の歴史的背景,その基礎理論,実践的方法論の確立について概説する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 林知己夫他「統計学の基本」杉山明子他「社会調査法」 
(実施回/ Week) 10日本人の国民性調査I---統計的無作為標本抽出法  (内容/ Contents) 戦後確立された統計的無作為標本抽出法により,1953年から現在に至るまで遂行されている「日本人の国民性調査」について解説する。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 水野他「第5 日本人の国民性調査」 
(実施回/ Week) 11日本人の国民性調査II---時系列的データの解析  (内容/ Contents) 「日本人の国民性調査」のデータの解析例を示し,人々の意識について,その表層構造と深層構造との区別に留意しながら解説する。 
 
(授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 水野他「第5 日本人の国民性調査」 
(実施回/ Week) 12意識の国際比較調査I---連鎖的比較のパラダイム 
Cultural Link Analysis (CLA) 
(内容/ Contents) 1970年台初頭より,「日本人の国民性調査」は「意識の国際比較」に拡張されてきた。各国の言語や調査法の差違を乗り越えて国際比較可能性を追求するパラダイム連鎖的比較方法論CLAについて解説する。 
 
(授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 吉野・林・山岡「国際比較データの解析」 
(実施回/ Week) 13意識の国際比較調査II---文化多様体解析 Cultural Manifold Analysis (CULMAN)  (内容/ Contents) 国際比較のパラダイムはさらに文化多様体解析CULMANとして発展しつつある。具体的なデータ解析とともに解説する。 
 
(授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 吉野・林・山岡「国際比較データの解析」 
(実施回/ Week) 14意識の国際比較調査III---「幸福感」「信頼感 の文化多様体解析 (CULMAN) 
 
(内容/ Contents) 文化多様体解析CULMANの枠組みの中で,特に「人々の信頼感」の国際比較の意味を,各国の人々の一般的回答傾向に留意しながら解析すべきことを示す。  (授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 吉野・林・山岡「国際比較データの解析」 
(実施回/ Week) 15ビッグデータの時代---ソーシャル・ビッグデータは「民主主義」を壊すのか?  (内容/ Contents) 急速に発展するIT社会の中で,伝統的マスコミュニーケーションを超えて,デジタル直接民主主義が謳われ,またWEB上の個人情報法を利用した非倫理的な選挙活動等が見られるソーシャル・ビッグデータの時代になった。人々の生活を豊かにすべきITは,人々の民主主義的平和を乱すのか,議論を深める。 
 
(授業時間外の学習/ Assignments) 参考図書 S.Stephens他「Everybody lies」S.レビツキ-「民主主義の死に方」 

人文社会の多様なトピックにふれるが,授業計画の進行のペースや力点は,受講者の関心や数学的予備知識のレベルに合わせて,柔軟に対応する。

<成績評価基準/Evaluation Criteria>

平常点(出席,クラス参加,グループ作業の成果等)  20%  講義中,しばしば質問を投げかけるので積極的に応答していただきたい。表面的な「正答」を求めるのではなく,自身の研究哲学を深めることにつなげることを期待する。 
クラスへの貢献度  10%  クラスの聴講者同士の議論を展開させることを期待する。 
提出物  50%  日常生活の中で簡単にできる実験や調査によるデータ収集や解析を行い,簡明なリポートにまとめる。荒削りでもよいので,独創性に期待する。 
小テスト  20%   授業中にデータ収集をかねて「小テスト」をするが,「正答」を求めるものではなく,各人の主観的判定に関するデータを収集し解析することに利用するので誠実に対応してほしい。テスト遂行の際に気がついたことがあれば,事後に積極的に報告してほしい。 

授業中の講師との質疑応答,日常生活の中でできる簡単な実験・調査のリポートを作成する中で,先人の確立した理論や業績に拘わらず,荒削りであっても独自の視点を持てるように努めることが大切である。

<テキスト/Textbook>

吉野・林・山岡  『国際比較データの解析』 (朝倉書店、2010) 208  ISBN:978-4254128253  本書のみに沿って講義を進めるわけではないが,講義中に現われる多くの話題が本書に関係している。 

 

<参考文献/Reference Book>

林知己夫  『データの科学』(朝倉書店、2001)130 ISBN:978-4254127249 戦後の日本の統計学の大きな柱を担ってきた著者の統計哲学がまとめられた書である。特に,世論調査・社会調査,医療統計,政府統計など専門家を志す者は,一度は熟読しておくことが望ましい。 
 

吉野諒三・千野直仁・山岸候彦  『数理心理学』(倍風館、2007)282 ISBN:978-4-563-05895-1 著者の独自の視点が見られるが,数理心理学全体を俯瞰するものではなく,飽くまでも参考に。 
 

<参照URL/URL>

日本人の国民性調査と国際比較調査 
 
日本人の国民性調査 
 
意識の国際比較調査 
 
 

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