シラバス
※学期中に内容が変更になることがあります。

2020年度


30770107 

△消費者法研究
Study on Consumer Law
2単位/Unit  秋学期/Fall  今出川/Imadegawa  講義/Lecture

  中田 邦博

<概要/Course Content Summary>

 ★本授業は,原則として,ネット配信授業としますが,対面授業を行うこともあります。 
 
「消費者法」とは,民法のような単一の法律ないし法典ではなく,「消費者を保護・救済するための複合法(複数の法律の集合体)」として理解されています。本科目「消費者法研究」は,消費者問題とその救済に向けた「消費者法」のシステムを理解することを目的としています。 
 最初に,「消費者法研究」で取り上げる消費者トラブル事例を紹介しておきましょう。たとえば,英会話の講座を途中で解約しようとしたら,授業料はほとんど戻ってこないといわれた(継続的役務提供)。インターネットで購入したブランド品が,注文した物とは違った偽物であった。ダイエットできるという宣伝で健康食品を購入したが,まったく痩せなかった。利用した覚えがないアダルトサイトから高額の請求書が送られてきた(架空請求)。ローンで購入した住宅に欠陥があって,建て直しが必要といわれてしまった(欠陥住宅)。一人暮らしの高齢者が,業者の訪問を受けて不要なリフォームの契約を次々と締結させられてしまった,あるいは高額の健康食品を大量に購入させられてしまったが,後で冷静に考えるとまったく不要なものであった(次々販売,過量販売)。携帯電話のアプリを無料のサービスだと思って利用したら,そうではなかった。国産の牛肉と表示されていたから買ったのに外国産のものだった(不実告知,優良誤認)。友人から勧められた情報商材のマルチ商法に引っかかってたくさんの借金を背負ってしまった(連鎖販売取引)。 
 さらに,近時の問題として,デジタル経済の時代を反映して,ネット通販や交通サービスなどデジタル・プラットフォームを介した取引トラブルも増えてきており,それをどのような法的ルールで解決するかが問われています。スマートフォンの普及にともないテレビ広告に匹敵する規模となったインターネット広告では,その真実性の確保も問題となります(誇大広告や欺瞞的広告,SNSなどでのステルス広告)。また,集められた個人情報をもとに行われるターゲティング広告は,個人情報保護の問題のみならず,情報操作の可能性(個人の嗜好に依拠して提供商品の提供を変化させたり,価格を変更する可能性)があったり,個人の意思決定に強く作用し過ぎる性質をもつことから,消費者の自己決定の自由を侵害するおそれがあり,社会問題ないし消費者問題として提起されてきています。 
 皆さんも,これらのトラブル事例を聞いたり,自ら経験したり,友人や家族が巻き込まれたことがあるかもしれません。消費者問題はきわめて日常的な生活において生じているのです。では,こうしたトラブルの原因はどこにあるのでしょうか。多くは詐欺的な取引ですが,そうではなく,事業者の説明が適切でなかったり,あるいは誤っていたりすることも少なくありません。個人では回避できない社会構造的な問題に根ざしている場合もあります。消費者は,それにどのように対処すればよいのでしょうか。社会は,どうすればそうしたトラブルを抑止できるのでしょうか。既存の法律で十分に対応できるのでしょうか。消費者法はどのような寄与ができるのでしょうか。 
 たとえば,近時,不正入試のあった医科大学に対する受験料の返還請求の訴訟を素材に考えてみましょう。この訴訟は現在進行中ですが,消費者被害救済のための集団訴訟として注目されています。一般に,個別の被害が少額であれば,費用対効果の観点からは,消費者個人に,通常の民事訴訟を提起することを期待することはほぼ不可能に近いことになります。数万円の受験料であればなおさらです。しかし,消費者団体が主体となり,消費者被害全体の総額を請求することができれば訴訟追行のメリットをみいだすことが可能になります(消費者被害回復のための特例法)。 
 他方で,個別の消費者被害の救済という観点からは,個別訴訟や団体訴訟よりも,裁判外の紛争解決,たとえば当事者の合意による迅速な解決が望ましいといえます。消費者と事業者との間を取り持つ消費者センターの相談窓口は,こうした消費者紛争処理に重要な役割を果たしています。 
 いずれにせよ,消費者被害の防止やその実効的な救済の仕組みをどのように構築していくかは消費者法の重要な任務です。そのためには,民事法的手段,刑事法的手段,行政的な手段を総合的に利用することが必要とされています。その際,消費者法学にとっては,既存の法律の限界を見極め,それをどのように克服するかが課題となります。新たな立法提案が必要とされるかもしれません。 
 本科目の目的は,上記のような問題について適切な解決を導き出すために必要となる基礎を学ぶことにあります。消費者トラブルを規律する個別法,消費者の権利を実現するための方策についても学びます。行政の役割,消費者団体の団体訴権,ADR,集合訴訟など被害救済メカニズムについても扱います。本講義では,実際の紛争事例も取り上げ,主に,消費者契約法,特定商取引法,割賦販売法などの法律を検討し,その際,消費者法と密接に関係する民法などの基本的な法律の仕組みと意義も理解してもらうようにしたいと思います。最新の動向として,消費者契約法の改正,デジタル・プラットフォームの問題についても注目します。 
 なお,本科目の担当者は,これまで消費者委員会の消費者契約法改正問題のワーキンググループなどに,また地方自治体での消費者問題に学識経験者として関与してきた経験を持っています。最近では,消費者委員会に設置されたオンラインプラットホーム専門調査会にも専門委員として参加していました。また,国際商事法・消費者法学会の会員として,また日本消費者法学会でも理事としても活動しています。そうした活動のなかで得た知見も提供したいと考えています。 
 授業内容には,消費生活相談員,消費生活アドバイザーなどの資格試験で問われる法的知識も含まれています。消費者保護の問題は,市民の生活に直接的に関わるものであり,行政の責任も重要です。2009年の消費者庁の創設はその一つの現れですし,地方の消費生活課や消費者センターも重要な役割を果たしてきました。行政職に関心のある人にも受講を勧めたいと思います。また,企業で活躍する人にとっても,消費者法の知識は,会社のコンプライアンスという観点からも重要なものとなります。 
 近時,消費者教育促進法も施行され,学校教育現場での消費者教育の重要性が飛躍的に高まっています。2022年に実施される成年年齢の引き下げは,高等学校までの段階での消費者(法)教育を不可欠なものにすることになります。学校関係者にも消費者法の知識は必須のものとなるでしょう。 
 消費者法の知識は,社会人としての生活にとって不可欠です。ビジネスの世界においても消費者である自分自身を守るためにも必要です。ぜひ多くの皆さんにしっかりと学んでほしいと考えています。 
 前半は,全体像を示すために,レクチャー方式で進めますが,後半はゼミ的な方式を取り入れて,質疑応答をしながら進めたいと考えています。後半のゼミ的な方式では,受講生との相談の上,受講者の希望に添った現代的な課題を取り上げます。このため,授業計画で示される後半のテーマは例示的なものとなります。そして,その報告は,成績評価の対象となるレポートの作成に役立つような形で行ってもらうことを考えています。 
 法学を学んだ経験を持たない受講生に対しては,適切なサポートをして過度な負担とならないように配慮したいと考えています。意欲のある受講者の受講を期待しています。 

<到達目標/Goals,Aims>

消費者問題がどのような問題であるのかを認識し,それを法的に解決する道筋を理解できるようになる。

<授業計画/Schedule>

(実施回/
Week)
(内容/
Contents)
(授業時間外の学習/
Assignments)
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 消費者法とは何か--消費者概念,消費者法のシステム,消費者法の原理,消費者被害の特徴,消費者基本法,消費者庁・消費者委員会  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』第1章を読んでおくこと(1時間程度)。 
講義内容の復習・コメント作成(1時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 消費者契約と民法(1)--消費者契約とは何か 契約法と契約責任,消費者契約法の概要  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』2章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 消費者契約と民法(2)--契約締結過程規制,情報提供義務,不当勧誘行為による誤認,困惑に対する規制  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』6章の予習・復習・コメント作成(1時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 消費者契約と民法(3)--不当条項規制,約款規制,一般条項の機能,平均的損害の概念  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』7章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 特定商取引(1)--特定商取引法とは 特商法総論,訪問販売,通信販売,クーリングオフ,  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』8章・9章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 特定商取引(2)--特定役務継続的契約,連鎖販売取引,その他各種の取引規制  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』10章・11章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 消費者信用取引(割賦販売法)--カード取引,貸金規制,金融商品取引--証券・商品先物取引,変額保険など, 
消費者信用法の制定の必要性 
(授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』12章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 不動産取引--法的紛争の現状と問題点 欠陥住宅,宅地建物取引業法  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』15章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) (内容/ Contents) 安全の確保と法的責任--消費者安全法,消費者生活用製品安全法,PL法  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』19章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) 10  (内容/ Contents) 広告・表示規制--不正競争防止法,景品表示法(優良誤認,有利誤認,課徴金)計量法  (授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』21章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) 11  (内容/ Contents) 高齢者保護,高齢者向けサービス取引--有料老人ホーム 
医療契約と消費者 
オンラインプラットフォーム取引--複合契約 
(授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』16章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) 12  (内容/ Contents) 消費者被害救済システムーー消費者の権利と消費者団体の役割 
団体訴訟 差止訴訟 金銭的被害の回復 
消費者裁判手続特例法 
各種のADR(裁判外紛争解決手続き) 
消費者債権の確保 
(授業時間外の学習/ Assignments) 『基本講義消費者法』22章・23章・24章の予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) 13  (内容/ Contents) 外国の消費者法,EU消費者法の展開  (授業時間外の学習/ Assignments) 配布レジュメの予習・復習・コメント作成(2時間程度) 
(実施回/ Week) 14  (内容/ Contents) レポート作成指導,事例演習  (授業時間外の学習/ Assignments) レポート作成(4時時間程度) 
(実施回/ Week) 15  (内容/ Contents) まとめ  (授業時間外の学習/ Assignments) レポート作成(4時時間程度) 

原則として,ネット配信授業としますが,対面授業を行うこともあります。受講生と相談の上,講義形式や課題方式,演習形式(受講者の報告)を組み合わせて実施することにします。なお,上記のテーマや授業計画は例示的なものとなります。

<成績評価基準/Evaluation Criteria>

レポート  50%  消費者法について基本的な理解ができていること。そのうえで,一定の課題について法的な知識を前提にしてその解決を示すことができる。 
平常点  50%  十分な予習,議論への参加,コメント・質問用紙などの提出。それらの状況によって受講者の取り組み内容と授業内容の理解度を評価する。 

レポートについては,消費者に関係するテーマを分析し,報告に対する授業での指摘などを反映した形でのレポートになっていること。 
平常点については,出席を前提として,質問表への対応と,質問や発言の内容などを考慮する。

<テキスト/Textbook>

中田邦博・鹿野菜穂子 編  『基本講義 消費者法』第4版  (日本評論社、2020刊行予定) ISBN:9784535522923  2020年3月に第4版を刊行予定。受講者は最新の4版を利用してほしい。消費者法の最前線で活躍している研究者・実務家が多数執筆している最新の教科書。基礎的な内容に関しての叙述だけでなく,かなり高度なレベルの今日的課題についても問題提起があるのでレポート作成にも役立つ。授業時に参照する教科書として利用する。 

 

中田邦博・高嶌英弘  『新・キーワード民法』 (法律文化社、2007) 民法の基礎的知識を確認し,消費者法に応用するために利用する。上記テキストと併用することもある。 

 

潮見佳男・中田邦博・松岡久和 編  『18歳からはじめる民法』第4版  (法律文化社、2019) 事前学習のためのテキスト。民法にも消費者法にも興味があるが,いずれもよく分からないという人にお薦めしたい。本書には,事例を通じて民法と消費者法の関係の理解を促進する工夫があり,できれば受講前に一読しておいてほしい。もっとも,同書は基本的に民法入門の本であり,消費者法の叙述は限定的である。2019年に改訂され,最新の法改正に対応した。 

 

<参考文献/Reference Book>

甲斐道太郎 ほか編  『消費者六法』(民事法研究会)消費者関連法規をまとめた便利な法令集。通達も整理されて収録されている。 
 

島川勝・坂東俊矢 編  『判例から学ぶ消費者法』第3版 (民事法研究会、2019)消費者問題で重要なものとされている裁判例を素材に消費者法の体系に沿って解説したものであり,現在の裁判例の到達点と問題点をわかりやすく説明している。2019年に改訂版が出版されアップデートされており,レポート作成の資料としても安心して利用できる。 
 

大村敦志  『消費者法』第4版 (有斐閣、2011)消費者法の定評ある体系書 内容は高度。 
 

広瀨和久・河上正二 編  『消費者法判例百選』(有斐閣、2010)消費者法に関する判例を取り上げて解説したもの。消費者法を具体的に学ぶための教材。また重要な論点に関するコラムも参考になる。 
 

長尾治助・中田邦博・鹿野菜穂子 編  『レクチャー消費者法』第5版 (法律文化社、2011)内容的にやや古くなっているが,消費者法についての基本的な理解を深めることができる。 
 
 

松本恒雄・後藤巻則  『消費者法判例インデックス』第1版 (商事法務、2017年)ISBN:9784785724917 消費者法に関する最新の裁判例を簡潔に紹介した判例解説書であり,使いやすい。 
 

日本弁護士連合会  『消費者法講義』第5版 (日本評論社、2018)消費者法の重要分野を詳細に説明した教科書であり,詳しく調べたいときに必要となる。ただし,内容は大学院レベル。 
 

 

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