シラバス
※学期中に内容が変更になることがあります。

2020年度


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△政治過程3 (政治経済学)
Political Process 3 -Political Economy-
2単位/Unit  秋学期/Fall  今出川/Imadegawa  講義/Lecture

  市川 喜崇

<概要/Course Content Summary>

 この授業では,「資本主義の多様性」論に依拠した近年の日本政治研究を取り扱う。主として,日本の「福祉国家」といわゆる「土建国家」をめぐる論文と研究書を扱うが,職業訓練や教育制度と労働市場との関連に焦点を当てた研究論文も取り上げる。  
 戦後の日本は,(「格差社会」が取りざたされるようになった今世紀になってからはともかくとして,少なくとも20世紀中は)先進諸国の中で,経済的な意味で最も平等な社会を実現している国のひとつとして理解されてきた。低福祉国家であった日本がなぜ平等な社会であったかについて,日本の公共事業費の多さに理由を求める見解がある。 
 この新たな政治経済学的見解は,福祉国家の機能的同等物(functional equivalent)として日本の公共事業支出を理解し,公共事業による後進地域への利益散布が,日本が,社会保障支出の少なさにもかかわらず,平等な社会を維持してきた「秘密」であると捉える。別形態の再分配国家として日本のいわゆる「土建国家」を位置づけようとするものである。最近の「資本主義の多様性」の議論に連なる認識である 。 
 「土建国家」は,もともとジェラルド・カーティスと石川真澄の造語である。彼らは,自民党国会議員が政権与党であることを利用して地元選挙区に公共事業の利益誘導をおこない,そのことによって選挙地盤を強化し,それがまた自民党一党優位体制を磐石にしていく循環を,かつて指摘していた。「与党が与党であることによって与党であり続けるシステム」 であり,土建国家は,自民党長期政権の「秘密」として理解されてきた。 
 最近の「資本主義の多様性」論に依拠する「土建国家」論は,基本的にカーティスらの議論を受け継ぎつつ,それに政治経済学的な解釈を加えるとともに,自民党政権がこのようなかたちの再分配国家をとるにいたった要因を探るものである。例えば,下記のEstévez-Abe著は,日本において社会保障支出よりも公共事業支出による再分配が好まれてきた理由を,日本に特有な中選挙区制(単記非移譲式複数議席選挙区制)の存在に求めている。 
 また,Estévez-Abe著は,日本の社会保障支出のあり方が普遍的(統合的)にならずに分断的(個別的)になった理由についても,従来の福祉国家類型論に由来する説明ではなく,中選挙区制における政治家の合理的選択行動による説明を試みており,その意味でも興味深いものがある。 
 この授業では,「資本主義の多様性」論に依拠する最近の日本政治研究をめぐる上記の研究動向をとりあげ,この議論の有効性を探る。

<到達目標/Goals,Aims>

 日本の再分配国家をめぐる政治経済学的な理解を得る。

<授業計画/Schedule>

(実施回/
Week)
(内容/
Contents)
(授業時間外の学習/
Assignments)
(実施回/ Week) 1.  (内容/ Contents) オリエンテーション 
・課題図書,参考文献の解説 
・この授業の進め方 
・福祉国家に関する概略的な理解を得る。 
(授業時間外の学習/ Assignments) 課題文献あり。下記コメント参照 
(実施回/ Week) 2.  (内容/ Contents) 下記テキストの徳久論文を読む。  (授業時間外の学習/ Assignments) 報告者は報告の準備。他の受講者は課題文献の講読と参考文献による発展的学習。 
(実施回/ Week) 3.  (内容/ Contents) 下記テキストの北山論文を読む。  (授業時間外の学習/ Assignments) 報告者は報告の準備。他の受講者は課題文献の講読と参考文献による発展的学習。 
(実施回/ Week) 4-14.  (内容/ Contents) 下記テキストのEstévez-Abe著を読む。  (授業時間外の学習/ Assignments) 報告者は報告の準備。他の受講者は課題文献の講読と参考文献による発展的学習。 
(実施回/ Week) 15.  (内容/ Contents) まとめ  (授業時間外の学習/ Assignments)  

第1回の授業で,下記テキストの久米郁男ほか『政治学』第4章「福祉国家」を取り上げる。受講者はあらかじめ該当部分を読んでくること。

<成績評価基準/Evaluation Criteria>

平常点(出席,クラス参加,発表,グループ作業の成果等)  100%  報告者は内容の理解度を重視する。発展的な議論ができるかどうかも重視したい。 

受講者が多数になった場合には,成績評価方式を変更する可能性がある。

<テキスト/Textbook>

Estévez-Abe, M. , Welfare and Capitalism in Postwar Japan .   (Cambridge University Press, 2008) . 

 

  『レヴァイアサン 32号』 (木鐸社、2003年) 123-146頁  所収の北山俊哉「土建国家日本と資本主義の諸類型」 

 

  『レヴァイアサン 49号』 (木鐸社、2011年) 84-109頁  所収の徳久恭子「学歴と労働市場―――日本型生産レジームの形成とその継続性」 

 

久米郁男ほか  『政治学(補訂版)』 (有斐閣、2011年) 第4章「福祉国家」 

 

<参考文献/Reference Book>

ジェラルド・カーティス=石川真澄  『土建国家ニッポン』(光文社、1983年)
 

新川敏光ほか  『比較政治経済学』(有斐閣、2004年)
 

金成垣編著  『現代の比較福祉国家論』(ミネルヴァ書房、2010年)
 

Hall, P. A. & Soskice, D. (eds.) , Varieties of Capitalism .   (Oxford University Press, 2001) . 

 

ピーター・ホール=デヴィッド・ソスキス編  『資本主義の多様性』(ナカニシヤ出版、2007年)前掲書の抄訳(山田鋭夫ほか訳) 
 

斉藤淳  『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房、2010年)
 

  『レヴァイアサン 49号-特集:福祉国家研究の最前線-』(木鐸社、2011年)
 

 

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