<概要/Course Content Summary>
本科目「特殊講義A(判例から見るアメリカ憲法の歴史2)」では,春学期に引き続き,アメリカ合衆国憲法(以下「合衆国憲法」)の歴史を,主としてアメリカ合衆国最高裁判所(以下「合衆国最高裁」)の判例を通じて分析し, 理解する。すなわち,アメリカ史を通じて生起したさまざまな政治的・社会的・文化的な事件や紛争を,合衆国最高裁が憲法問題として取り上げ,どのように憲法の条項を当てはめて解決してきたかを検討する。その意味で本科目は,単に連邦憲法の元々の条項,改正・追加された条項の歴史だけでなく,合衆国最高裁の歴史ならびに同裁判所による連邦憲法の解釈の歴史を取りあつかう。 アメリカ合衆国の誕生以前,イギリスの北米植民地にはそれぞれ英国の制度に倣った司法制度(州の裁判所)が存在し,機能していた。アメリカ合衆国誕生後,植民地の裁判所はそれぞれ州の裁判所となり,現在に至るまで重要な役割を果たしている。これらの裁判所とは別に,独立した旧植民地の代表が集まって連邦憲法を制定し,アメリカ合衆国を創設した際,この新しい統一国家にも立法府(議会),行政府(大統領)とならんで司法府(裁判所)が設けられる。しかしこうして誕生した合衆国最高裁とその他の合衆国裁判所は,建国当初その任務と役割が明確でなく,州裁判所と比べて扱う紛争も限られており,極めて弱体であった。しかし合衆国憲法の解釈を通じて,合衆国議会が制定した連邦法,大統領をはじめ合衆国行政府の行為,州議会が制定した州法,州行政府の行為,州最高裁の判決などを違憲無効とする権限を確立してから次第にその力を増大し,今日のような大きな権限と影響力を行使するようになる。したがって本科目では,連邦憲法の解釈を通じて連邦最高裁がどのように自身の重要な役割を獲得したかを,具体的な問題,特に合衆国最高裁の憲法判例を通じて検討し考察する。 授業は原則として演習・ゼミ形式で行う。ただし初学者のために,また必要に応じて,合衆国憲法制定,合衆国最高裁創設の背景や歴史などについて,教員が講義形式で概略を説明する。その他通常の授業では,あらかじめ指名した学生が判例の内容についての発表し,その上で教員ならびに他の学生との問答の形式で授業を行う。教員による一方的な授業ではなく,教員と学生,学生と学生の間の質疑と議論に基づく,活発な授業にしたいと考えている。履修者諸君の積極的な授業参加を期待する。その他詳細は,初回授業で説明する。 なお毎回の授業に,アメリカ合衆国憲法(原文)を必ず持参すること。入手方法については授業で説明する。
<到達目標/Goals,Aims>
合衆国憲法と合衆国最高裁の歴史を,憲法判例を通じて学ぶことによって,アメリカ合衆国で生起してきたさまざまな事件や紛争を,合衆国最高裁が憲法上どのように解釈し解決してきたかを理解できるようになる。また合衆国最高裁の判例を原文で詳しく読み分析することによって,他の学問分野にも応用が可能なアメリカの法律的な思考力と論理力を身につけることができる。
<授業計画/Schedule>
(実施回/ Week)
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(内容/ Contents)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
1
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(内容/ Contents)
イントロダクション:本科目の概要,授業の進め方,発表の仕方,授業計画,評価基準などについて説明する。20世紀に入ってから今日に至るまでの憲法の歴史を,合衆国政府の権限拡大とその抑制というテーマで概観する。
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(授業時間外の学習/ Assignments)
次回に扱う,判例,文献,論文などを必ず事前に読んでおくこと。そのための判例その他は,予め指定もしくは配布する。以下同じ。
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(実施回/ Week)
2
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(内容/ Contents)
修正第14条デュープロセス条項の実体的解釈:Dred Scott v. Sandford (1857), Lochner v. New York (1905), Mueller v. Oregon (1908)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
3
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(内容/ Contents)
憲法修正第1条のもとでの言論の自由:Schenck v. United States (1919), Abrams v. United States (1919)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
4
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(内容/ Contents)
ニューディール立法初期の合憲判決:Home Building and Loan Association v. Blaisdell (1934), Nebbia v. New York (1934)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
5
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(内容/ Contents)
ニューディール立法違憲判決:Schechter v. United States (1935), Carter v. Carter Coal Co. (1936), Morehead v. New York ex. rel. Tipaldo (1936)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
6
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(内容/ Contents)
ニューディール立法合憲判決:West Coast Hotel Co. v. Parrish (1937), National Labor Relations Board v. Jones and Loughlin Steel Corp. (1937)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
7
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(内容/ Contents)
合理性違憲審査基準の確立:United States v. Carolene Products Co. (1938), United States v. Darby (1941), Wickard v. Filburn (1942)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
8
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(内容/ Contents)
大統領の外交権限と戦争権限:United States v. Curtis-Wright Export Corp. (1936), Hirabayashi v. United States (1943), Korematsu v. United States (1944), In re Yamashita (1946)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
9
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(内容/ Contents)
冷戦と思想の自由:West Virginia State Board of Education v. Barnett (1943), Dennis v. United States (1951), Yates v. United States, 354 U.S. 298 (1957)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
10
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(内容/ Contents)
憲法条文に基づかない憲法上の権利:Brown v. Board of Education (1954), Griswold v. Connecticut (1965), University of California Regents v. Bakkie (1978)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
11
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(内容/ Contents)
大統領の司法手続き免除の限界: United States v. Nixon (1974), Clinton v. Jones (1997)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
12
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(内容/ Contents)
大統領の戦争権限の限界:Youngstown Sheet and Tube Company v. Sawyer (1952), Hamdi v. Rumsfeld (2004), Hamdan v. Rumsfeld (2006)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
13
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(内容/ Contents)
合衆国議会権限の限界:INS v. Chadha (1983), Morrison v. Olson (1988), United States v. Lopez (1995), National Federation of Independent Business v. Sebelius (2012)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
14
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(内容/ Contents)
合衆国最高裁の州最高裁に対する優越:Bush v. Gore (2001)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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(実施回/ Week)
15
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(内容/ Contents)
大統領権限の拡大:Zivotofsky v Kerry (2015), Trump v. Hawaii (2018)
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(授業時間外の学習/ Assignments)
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実際に授業を行ったうえで,講義の進捗,判例その他の分析などに要する時間によっては,上記の計画を変更する可能性がある。
<成績評価基準/Evaluation Criteria>
平常点(出席,クラス参加,グループ作業の成果等)
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25%
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アメリカ大統領の歴史を全体として理解するためには,継続して授業に参加して考えることが重要であるため,出席日数を重視する。また授業参加への自発的積極性を評価する。
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期末レポート試験・論文
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50%
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本科目で扱った内容をきちんと理解できたか,実際に表現できるかどうかを確かめるために,期末レポートを重視する。(ただし履修者の人数が多いときには,期末試験に変更する場合がある。)
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クラスでの発表など
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25%
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本科目で扱う内容を,自分の頭で理解し,自分の言葉で口頭で説明できるか確かめるために,クラスでの発表を重視する。
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出席回数,クラスでの発表の回数と内容,期末レポート(もしくは期末試験)の内容
<テキスト/Textbook>
特定のテキストは用いないが,授業で扱う判例や資料を,必要に応じて指定あるいは配布する。
<参考文献/Reference Book>
<参照URL/URL>
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