シラバス
※学期中に内容が変更になることがあります。

2020年度


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△スーフィズムとイスラーム哲学2 (イスラームの信仰、スーフィズム、哲学(2))
Sufism and Islamic Philosophy 2 -Belief, Sufism and Philosophy in Islam (2)-
2単位/Unit  秋学期/Fall  今出川/Imadegawa  講義/Lecture

  仁子 寿晴

<概要/Course Content Summary>

 「スーフィズムとイスラーム哲学2」では,リチャード・フランクの論文六本を読みながら古典期アシュアリー学団の存在論を論ずる。ここで古典期アシュアリー学団と言うのは,アル=ガザーリー(西暦1111年歿)を分水嶺にしてその後の後期アシュアリー学団から区別される西暦9世紀から12世紀初頭までのアシュアリー学団を指す。後期アシュアリー学団は多かれ少なかれ,イブン・スィーナー(西暦1037年歿)の思想の影響下にあり,彼らの思想体系が完全に姿を変えるとまでは言わないまでも,イブン・スィーナーの術語が導入されることで古典期アシュアリー学団の有していた独特な言語哲学・形而上学,並びに同学団の厳密な術語設定に基づく体系が,一定程度失われる。本講義で抽出しようとするのは,古典期アシュアリー学団本来の言語哲学・形而上学である。 
 アリストテレスはギリシア語の言語構造の検討を出発点として己れの哲学を構築した。それと同じく,イスラーム思想においては,カラームと呼ばれる学問分野(所謂「イスラーム神学」)がその任を担った(イブン・スィーナー哲学に代表される一般的に「イスラーム哲学」と訳されるファルサファがこの任を担った訳では決してない)。このことは,哲学伝統がギリシア語に淵源するものだけに限られるわけでないのを意味する。ムウタズィラ派バスラ学団とアシュアリー学団――併せて古典期バスラ系カラームと呼んでおく――は,各々に違ったタイプの思想を展開するものの,ものと発話の関係を徹底的に解明しようとする点で一致する。別の言葉で言えば,彼らは,人ないし神が何かを指して記述し発話する,その発話という設定の下でものを把握しようとする。ものの側に独立したそのもの固有の本質があって,それを言語が記述するという考え方を彼らは有たない。むしろ,或る発話が真である,その真理条件としてものを把握する。 
 こうした基本的な言語=存在論設定の下では,我々の知る存在論とはまるで違う存在論が提示される。本講義で論ずるのは,そうした存在論の諸相である。我々は何気なく「もの」という語を用いるが,古典期バスラ系カラームが念頭に置く「シャイウ」(訳せば「もの」)は,我々の「もの」という語で為す概念把握とはまるで違う(無論,ギリシア思想に「シャイウ」と並行する考え方はない)。そうした我々にとって未知なる「もの」に即して古典期バスラ系カラームは「存在する」(マウジュード)という述語を把握する。「シャイウ」が我々にとって未知であるのと比例して「マウジュード」の概念把握も我々にとって未知である。本講義はそうした「マウジュード」論としての存在論を扱うことになる。また,現実の眼の前のものをそれが帯びるべき本質の側からアプローチするのでなく,発話の対象として理解することに由来して,古典期バスラ系カラームは,ものにそのもの自身の可能性が内在するとは考えない。だが,古典期バスラ系カラームにも可能性の概念がある。それは,当のものを創造する神の自律的に行為発動する力に即してみた,ものの可能性である。或るものが現に存在するということは,そのものの反対対立項(例えば白と反対対立する黒や黄)が撥無されて,その当のもの(上の例では白)が存在する。神は,白と反対対立する無限の色を創造する力を有つ。神は,己れの自律的に行為発動する力で以て無限の選択肢のなかから特定の色を択び創造する。ここに言う無限の選択肢こそが古典期バスラ系カラームにとって可能なものである。 
 古典期バスラ系カラームが提示する独特の存在論は,後代のさまざまな思想形態に影響を与えた。イブン・スィーナーの哲学が我々にとって独特に見えるのは,多くは,同時代のムタカッリムーン(神学者たち)の存在論を知っていたことに由来すると思われる。 
 なお,リチャード・フランクの論文は,頗る難解であるので英語原文のコピーに添えて和訳も配布する。出来るだけ事前に眼を通しておいていただきたい。

<到達目標/Goals,Aims>

我々は,西洋哲学を哲学と見做す。だが,本講義では,西洋哲学だけが哲学なのでなく,それと別種の哲学があるとの立場を採る。イスラーム文化圏において己れの言語(アラビア語)の用法から哲学を立ち上げた古典期カラーム,特にアシュアリー学団の存在論を扱う。イスラーム思想を或る意味で根柢から支えた存在論(無論これはアリストテレスなどギリシャ思想の存在論でない)を大づかみに把握することが出来るようになるとともに,他の文化における思想を検討する場合にそれを応用できるようになることを望む。

<授業計画/Schedule>

(実施回/
Week)
(内容/
Contents)
(授業時間外の学習/
Assignments)
(実施回/ Week) 1回目  (内容/ Contents) イントロダクション―アシュアリー学団概説  (授業時間外の学習/ Assignments) 第1回授業の復習 
(実施回/ Week) 2回目  (内容/ Contents) "al-Ghazali's Use of Avicenna's Philosophy"の読解と検討(1)――古典期アシュアリー学団から逸れてゆく後期アシュアリー学団について  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 3回目  (内容/ Contents) "al-Ghazali's Use of Avicenna's Philosophy"の読解と検討(2)――アル=ガザーリーが古典期アシュアリー学団の存在論を撥無すること  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 4回目  (内容/ Contents) "Hal"(EI2所収項目)の読解と検討(1)――ムウタズィラ派バスラ学団の様態論  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 5回目  (内容/ Contents) "Hal"(EI2所収項目)の読解と検討(2)――アシュアリー学団の様態論  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 6回目  (内容/ Contents) "Bodies and Atoms: the Ash`arite Analysis"の読解と検討(1)――古典期バスラ系カラームの原子論  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 7回目  (内容/ Contents) "Bodies and Atoms: the Ash`arite Analysis"の読解と検討(2)――アシュアリー学団のもの把握と物体把握(ものとしての原子群と偶有群と,その集積体としての物体の連関をアシュアリー学団が如何に把握するか)  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 8回目  (内容/ Contents) "The Ash`arite Ontology I: Primary Entities"の読解と検討(1)――古典期アシュアリー学団の「マウジュード」(存在する/存在者)理解と第一次的に存在する「もの」の把握  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 9回目  (内容/ Contents) "The Ash`arite Ontology I: Primary Entities"の読解と検討(2)――古典期アシュアリー学団による「シャイウ」(もの)の概念把握と定義概念  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 10回目  (内容/ Contents) "The Ash`arite Ontology I: Primary Entities"の読解と検討(3)――古典期アシュアリー学団によるクラス(集合)概念  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 11回目  (内容/ Contents) "The Non-Existent and The Possible in Classical Ash`arite Teaching"の読解と検討(1)――古典期バスラ系カラームにおける,現実に存在する以前の「もの」=可能者の把握  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 12回目  (内容/ Contents) "The Non-Existent and The Possible in Classical Ash`arite Teaching"の読解と検討(2)――古典期アシュアリー学団が現実に存在する以前の可能者把握において何を問題にしたか(ムウタズィラ派バスラ学団と違ってアシュアリー学団は,現実にものが存在する以前の何かを「もの」と呼ばないが,可能的な何か,神の力の対象としてはその何かを認める)。  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 13回目  (内容/ Contents) "Al-Ahkam in classical Ash`arite Teaching"の読解と検討(1)――「アフカーム」は「フクム」の複数形,元来の意味は,或るものについての判断=その判断の言語表記。フクムも難読語であり,さまざまに解釈される。  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 14回目  (内容/ Contents) "Al-Ahkam in classical Ash`arite Teaching"の読解と検討(2)――古典期アシュアリー学団におけるフクム概念とものの「様態」(ハール)説の連関  (授業時間外の学習/ Assignments) 事前にテクストを読んで講義に備えること 
(実施回/ Week) 15回目  (内容/ Contents) 総括討論  (授業時間外の学習/ Assignments) これまでの講義で疑問に思ったことをまとめておくこと 

<成績評価基準/Evaluation Criteria>

平常点(出席,クラス参加,グループ作業の成果等)  30%  出席 
期末レポート試験・論文  70%  提出された期末レポートの内容で評価する。精確な理解を要求するよりも,どれだけ真剣に考えたかを評価する。 

期末レポートの提出を義務とする。

<テキスト/Textbook>

Richard M. Frank , Philosophy, Theology and Mysticism in Medieval Islam :  Texts and Studies on the Development and History of Kalam, Vol. I .   (Ashgate, 2005) .  講義では当論文集に収録される"al-Ghazali's Use of Avicenna's Philosophy"を使用する。英語原文のコピーと和訳を配布する。 

 

Encyclopaedia of Islam 2nd ed. .  講義では同辞典所収項目Richard M. Frank, "Hal"を使用する。英語原文のコピーと和訳を配布する。 

 

Richard M. Frank , Classical Islamic Theology: The Ash`arites :  Texts and Studies on the Development and History of Kalam, vol.III .   (Ashgate, 2008) .  講義では同論文集所収の四本の論文"Bodies and Atoms: the Ash`arite Analysis", "The Ash`arite Ontology I: Primary Entities", "The Non-Existent and The Possible in Classical Ash`arite Teaching", "Al-Ahkam in classical Ash`arite Teaching"を使用する。英語原文のコピーと和訳を配布する。 

 

テキストは事前にコピーで配布する。

<参考文献/Reference Book>

講義中に適宜指示する。

 

お問合せは同志社大学 各学部・研究科事務室まで
 
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